◼️ 上田義彦「いつも世界は遠く、」鑑賞記





この展示会は氏の代表作から未発表の初期作品や最新作まで、作者が自らが現像やプリントをした作品を含む約500点を通じ、その40年間の軌跡をたどる大規模回顧展。概要と見どころは、上の美術館HPが詳しい。楽しみにしていた展示会なので近代美術館葉山へ。我が家のカミ様がめずらしく「わたしも見に行きたいわ」というので一緒に出かけた。

写真活動をはじめて少し経った頃、10年くらい前に上田作品を知った。きっかけは「Photo GRAPHICA 2007 Spring」を古書店で見つけてポートレート大特集号で氏の作品を見たことだった。それ以前にもいろいろなメディアで氏の広告作品を意識せずに見ていたかもしれないが、この古本を見て氏の作品は強く印象に残った。

自宅近くの盛り場に出歩いては人物をスナップしていたわたしは、ストリートスナップの写真展や写真集を見ることが多かったが、このポートレート特集号を見て以降、人と向き合あうことを心がけて、時間をかけコミュニケーションしながらスナップポートレートを撮影することが増えた。そうした経緯もあって、この大規模回顧展を興奮気味に拝見した。

以下、ランダムですがその感想。

・一言でいえば、写真表現がもつ魅力と大回顧展のすばらしいプリント作品群に圧倒されました。ただ、作品のボリュームは圧倒的だが、鑑賞体験としてはやや情報過多で消化不良になり、個々の作品の印象が薄れがち。わたしのキャパシティーを超えオーバーフロー状態に。また、40年の軌跡やテーマ性やスタイルの変遷が、量が多すぎてやや散漫に感じられた。

 
・キャプションがないため、作品の背景や文脈を知るには事前知識があったほうがいいかも知れない。いま手元に氏の写真集「島へ」がある。この写真集を手にとってみると、火山とともにある三宅島の荒々しくも美しい風景とそこに暮らす人々の佇まい穏やかな表情が印象的に見えた。柔らかいトーンで撮影されており、声高なメッセージではなく、静かに心に染み入るような印象です。その後にステートメントを読んだ。三宅島の2000年の噴火により高濃度の火山性有毒ガスが発生したため住民は全島避難を余儀なくされた。この写真集は「島に帰りたい」と願う人々の想いがテーマの中心だったのだがステートメントを読まなければ、それは分からなかった。それからもう一度見直すと印象が違ったモノになった。大回顧展ではすべての作品に解説は要らないかも知れないがテーマによってはあった方が鑑賞者には親切なのではないかと感じた。

 
・この展示会を光画塾に紹介したとき「上田は広告写真やポートレートなどで長く活躍したので雑然とした余計なノイズが少ないスッキリまとまった絵作りに特徴があると書いた。雑然としたノイズが写り込みやすい街で撮るスナップポートレートと、スタッフたちと照明やセットアップに時間をかけて大型カメラでじっくり向き合い撮るのとでは、そこに流れる時間、緊張感、空気感が異なって、それらが美意識・美学とともに作品に写り込んで作品になることは容易に想像がつく。そして単に美しく撮ることを超えて、光とプリントの精緻な技術によって、見る者の記憶や感情に語り掛ける作品群になっている。

ただしキュレーションの観点では残念なことがあった。もともと最上段に展示したの作品はよく見えない。そのうえ、保護板付きの額装が多いこと。作品の素晴らしい質と量に頼りすぎて、空間設計がややなおざりとも言えそう。作品保護を考えてのことかもしれないが、最上段の保護板の作品は照明や自然光が反射してよく見えない。目の高さの展示作品は保護板に鑑賞者が写り込んでしまうなど、せっかくの静謐で美しいプリント作品の諧調や質感などが実感しにくい。こうしてみるとキュレーションでは光のコントロールと展示の仕方に改善の余地があるように感じた。そしてこの美術館での展示がベストかどうか・・。

以上

◼️ 上田義彦「いつも世界は遠く、」鑑賞記” に対して1件のコメントがあります。

  1. 管理人 より:

    私も8月初めに見に行きました。
    全ての作品はご本人所蔵のもので、したがって額装もそのまま。展示のレイアウトもご本人のイメージ通りなのかなと思いました。変化のある展示でしたので、沢山の写真でしたが飽きさせることなく良くまとまっている印象でした。さすがにプロですね。写真家は自分の作品を管理するために広い保管場所もいるわけでいろいろ大変ですね(笑)。

    写真展に期待するのはオリジナルのモノクロ作品です。言い換えればゼラチンシルバープリントです。その点からみれば少し残念でした。サイズが小さい、しかも大分下に取り付けられている。暗くてよく見えない。この点だけは私のせいかもしれませんが。最近暗いところがますますみえづらくなっていますので。

    有名なCMの写真が後半に並んでいましたが、こちらはさすがにプロですね。私たち素人が撮るものとは次元が違うことを改めて思い知らされてきました。

    全体では穏やかな良い作品が多かったと感じました。たぶんお人柄かと想像しました。ロビーではビデオが流れていて、そのなかでご本人が「写真を撮るときは考えるな。伝わってくるものを写せ。」と言うようなことを仰ってました。ご自分が教えている学生に伝えたかったことだと思います。その写真で何を伝えたいのか?を別の言葉で表しているようですね。頭に残りました。

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